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物語とエロスが満載のブログです。
秘書 萌美(35)
 京葉電鉄不動産の本社ビルは品川駅前の超高層ビルの二十階にある。使用しているフロアーは二十階から二十五階までで開発部は二十三階になっている。

 小野田ハウスからそのビルまではJRと地下鉄を乗り継いで一時間ほどだが、途中、菓子折りの買い物やらで、小野田たちが本社ビルに着いた時には午後三時を少し過ぎていた。

 今日の小野田は輝彦とは面会する約束はしていない。指名参加願いを提出したついでに輝彦と仕事の話でもできればそれで良いと思っていた。

 萌美が化粧室から戻ってきた。運よくエレベーターの扉が開いて二人は乗った。この時間帯なのに混んでいてボタンを押さなくても、テナントの社員が二十三階のボタンを押して扉が閉まリ、エレベーターは昇っていく。

 二十三階に着く。エレベーターを降りた正面に受付カウンターがある。萌美は小野田の名刺に自分の名刺を添えて受付へ。そして名刺を差し出して、
「望洋の郷 第三期造成地の指名参加の書類を提出したいのですが、どちらの方へ」
と、受付嬢に訊いた。

「開発部の事業課です。そちらのドアを開けてお入りください」
 受付嬢が席から立って、手で示した。
 
 萌美は小野田の後に付いて事務所に入る。役所のような雰囲気で通路に面した受付カウンターと事務室が遠くまで続いている。そして事業課の受付には背広の男の列ができていた。

「これはすごい競争率になるな…」
 小野田がそう言い、眉間を曇らせた。

 それでも受付の事務処理が慣れているせいか、それほど順番待ちしないで小野田たちの番になり、書類を提出する。控えは無く、代わりに京葉電鉄のパンフを頂いてすべてが終了する。
 
「どこかで美味いコーヒーでも飲むか」
「はい」

 書類を提出してほっとした萌美の肩に男の手が置かれた。萌美はその手が小野田の手だと思っていて、返事をして振り向いた。

「す、すみません!」
「ごめん、ごめん。驚かして」

 萌美の肩を叩いたのは小野田ではなく、開発部長の五島輝彦だった。萌美は一歩、後ろに退いて、お辞儀をした。

「どうしてこちらに」
 輝彦が萌美の全身をさらりと目で流してから、笑顔で見つめてくる。

 その輝彦に小野田が進み出て、
「日取りが良いので指名参加をさせていただきましたよ。たしか、今日は、京葉電鉄さんの創立記念日でもあるので…」

「ほう、よくご存じで!」
 輝彦は驚いた顔で小野田を見つめてから、改まり、
「あと、もうひとつの目出度いというか、嬉しい日ですが。なんだかわかります」
と、問うてくる。

「はて、なんでしょう」
 小野田はにこやかな顔に眉間を寄せて考える振りをする。萌美も会社四季報で調べた京葉電鉄のデーターを想い出してみるが、今日の日取り(5/26金)に絡んでくるものがない。

 二人が悩んでいると輝彦が促すように歩き出した。
「答えはこちらにありますから」と。

 その輝彦の後を二人はついていく。

 輝彦が振り向いて、
「小野田さん、これからのご予定は…」
と、訊いてくる。

「ありませんが…」
 小野田は応える。

「それはよかった」
 輝彦は安心したように応えると通路を歩く足を速めていく。小野田も萌美もその彼の後をついていく。

 輝彦は事務所を出るとホールのエレベーター前で立ち止まり、二人に改まって向き直った。
「いや、失礼しました。今日はフレミアム・フライデーでしてね。管理職が率先して午後の三時には退社しろとの命令なんですよ。それで、これからマリーナに行くところなんですが、よろしかったらご一緒にと思いまして。いかがでしょう」
 輝彦はそう言って萌美を見つめてから、小野田を説得するような顔で窺ってくる。

 小野田にとっては願ってもないことだった。付き合いの理由なんかどうでもよく、萌美を彼の目に見せる時間が長ければ長いほどよいだけのこと。

「それはそれは、わたしどもでよければ、いくらでもお付き合いさせていただきますから」
 小野田はそう応えて、扉が開いたエレベーターに萌美と一緒に乗る。

 地階の駐車場でエレベーターを降りる。

 場内を歩く輝彦の足が止まったのは社用車の区画ではなく、その隣の社員用の区画だった。横浜のナンバーで黒のレクサスだった。
 
 リモコンで開錠した輝彦は、「どうぞ」と後部座席のドアを開けた。小野田は萌美を後ろの席に乗せてから助手席に乗った。気を利かせて萌美を助手席に乗せることも考えたが、見え透いたことをすると逆効果になりかねなかった。



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