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物語とエロスが満載のブログです。
秘書 珠代(8)
 その日の研修が終わり、珠代は部屋に戻った。室長は社長と仕事の相談があるらしく深夜になるまで戻ってこない。

 珠代はテレビを見たり、実母に預けている娘と長電話をしたりしたが、それでも時間を潰しきれない。ならば先に寝てもいいものだろうかと珠代は悩むが、後々の室長の嫌味のことを思うと、例えベッドに入ったとしても眠れないだろう。

 時刻は夜の十一時を過ぎている。
 
 珠代は窓辺に行った。夜の海の遠くに点々と漁火が見える。浜辺も暗闇ではなくホテルから漏れる明かりで砂の起伏が薄ぼんやりと辿れる。その薄暗い浜辺で家族連れの親子が花火で遊んでいる。

 そこに室長の姿が…。社長の腕を胸に抱いて花火に興じる家族連れを離れた所から観ている。

 珠代はその二人を何の感慨もなく見つめた。社長と秘書室長。その関係が深くても浅くても、どちらも当たり前のような気がする。同年齢で独身だし不潔なイメージはなかった。

 そんな平和な目で見つめていたから、いつのまにか見失っていた。珠代は窓辺から戻りベッドに横になると、テレビのスイッチを入れた。そしてしぱらく深夜のドラマ放送を見ていたがいつのまにか瞼を閉じていた。 
   
 その珠代の目が.覚めたのはどこからとなく聴こえてくる女の声だった。それが社長の部屋から聴こえてくる室長の歓びの声だとわかるのに時間はかからなかった。女の体の奥で湧き上がる快感を澄んだ声で歌い上げているような声。その声に聴かされる女を赤面させるようなコトバが融け込んでいる。…マンコとか気持ちいいとか。

 このわたしは夫との性行為でどのような声を上げていたのだろうか。

 快感に耐えられないで声を上げるということは絶対になかった。行為のときにはいつも不満が脳裏にあった。もっと奥まで突いて欲しいとか、強い摩擦が欲しいとか。それでも必要最小限の声はあげていたように思う。

 そのわたしと比べたら室長の声は歓びに溢れている。女としてこの世に生まれた幸福。膣を所有する幸福。それらが歓びの声として社長の部屋から聴こえてくる。

 その声は途絶えては始まり、途絶えては始まりで延々と午前三時過ぎまで続いた。珠代はベッドで頭を枕で押さえたり、シーツで包んだりして室長の声を遮断しようとしたが、それでも耳に入り込んできた。いったい室長をこんなにも歓ばせる社長の抱き方は夫と比べてどこが違うのだろう…。

 その室長が部屋に戻ってきたのは早暁で、ベッドで寝た振りをしていた珠代の耳にこのように囁いてきた。
「あなたも社長に抱かれてみればわかるわよ」と。

                  ********

 研修二日目の朝、小野田ハウスの一行は朝食を済ますとホテルの玄関前からタクシーに乗った。
 
 今日は造成地の視察で、これまで響子が担当していた東洋地所の『蛍の郷・住宅建設工事』を見学するのと、会社の幹部に珠代を紹介するのが主な目的だった。
 
 後部座席に一行の三人を乗せるとタクシーは走り出した。ホテルのロータリーを出て狭い商店街の道を抜けると海岸沿いの国道を速度を上げて飛ばしていく。

「これから視察する東洋地所の資本金と従業員数は」
 小野田が突然、珠代に質問してきた。

「…すみません。不勉強で」
 珠代はそう言って目線を下げた。そういえば研修の資料に専門研修の視察先として東洋地所の名があった。あらかじめ調べておくのが秘書なのかもしれない。

 その珠代の代わりに室長が答える。
「資本金は約四百五十億円で従業員は約八百人ぐらいです」

「会社の沿革は」
「創業が平成三年で本元は金融業です。その潤沢な財力で赤字のゴルフ場を買収し不動産事業へと乗り出しています。不動産関係の事業所は本社を含めて関東に三箇所、関西に二箇所です。社長は創業者の佐伯一郎です。開発部長は長男の俊彦です」

「さすが室長だな」
 小野田は満足して倫子を褒める。その小野田の隣で珠代は秘書としての未熟に打ちのめされていた。

 タクシーは一旦、造成地の最寄りの駅に寄り、駅前の百貨店で菓子折りを購入してから現地へと向かった。駅前道路から海沿いの道に出、太平洋の海原を臨みながら走っていく。景色は所々防潮堤で遮られるが静かな春の海原が続いていく。

 珠代は小野田の腕に腰を預けながら春の海に目を預けている。あの御膳にビールを溢した粗相に対しての室長からの申し付けが、「いい年をして男に抱き寄せられることに慣れなさい」だった。

 いま珠代はタクシーの中でも社長に腰を抱き寄せられているが、女はこういうことにも慣れる必要があるのだろうか。珠代は疑問だった。

 たしかに室長が言うように宴席で脚を愛撫されたぐらいで取り乱し、御膳にビールを注いでしまうようでは秘書失格だった。でも、あのとき社長の愛撫は本気だった。それなのに何年もの間、女の欲求を断たれている三十代後半の未亡人が耐えられるはずがなかった。

 珠代は社長がまた本気で愛撫してくるのではないかと気がきではなかったが、幸いにも彼の手は脚に置かれているだけで大人しくしていた。

 タクシーは海岸通りの交差点を海と反対側に折れて小高い丘陵地を登っていく。緩い傾斜がしだいにきつくなり、そしてまた緩やかになりながら左側に小渓流を従い、丘陵の奥へと入り込んでいく。

 渓流の畔に茶屋が現れる。あの響子が東洋地所開発部長の佐伯に抱かれた茶屋である。あれから二年ほど経過しているが、繁盛しているのか木造平屋から五階建ての鉄筋コンクリート造りに増改築している。

「珠代くん」
「は、はい」
 珠代は突然、社長に名を呼ばれて緊張した声で返事をした。

「響子くんは、この茶屋で東洋地所の部長を接待して、何十億円もの工事を契約させたのですよ」
「そうですか!」
 珠代は巨大な金額に驚いた。

「その響子くんの後を珠代くんに任せたい。頑張ってほしい」
「…は、はい」
 珠代は気後れしそうになるのを堪えて、返事をした。

 タクシーはそのまま山間の道路を走り続けて峠を越え、反対側の下り道を快適に走っていく。道の所々に東洋地所の『蛍の郷・住宅建設工事』の立て看板が現れてくる。

 看板が立っている所では眺望が開け、春の日盛りに輝いている広大な造成地が望まれる。珠代はこれから秘書の初仕事が始まるのかと思うと、気分が高揚して脚に置かれている社長の手を強く握りしめた。

 タクシーは登りと同じ時間を下り、造成地の中心部にある東洋地所の工事事務所に着いた。



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 .次ぎの更新は8/17(金)です。


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