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物語とエロスが満載のブログです。
秘書 萌美(6)
 倫子たちが部屋に着くと小野田は窓辺で夕方の海を眺めていた。でも、すぐに気づいて、ため息をついてからお膳に座った。

 いかにも待ちくたびれたような小野田に、倫子は遅れたことへのお詫びをしてから浴衣の裾を揃えて腰を下ろした。萌美もお詫びをしてから倫子の隣に腰を下ろした。

 小野田は浴衣の湯上り美人二人に意識的に怒った顔を見せてから、笑顔を湛え、

「美人は男を待たせる権利があるんですよ。よいよい」
と、似合わぬ寛容を口にしてきた。

 その小野田に倫子は感心して、
「ごめんなさい」とふたたび謝った。その隣で萌美は口を手で覆って、くすくすと笑っている。
 
 お膳には海浜ホテルならではの海の幸が大きな船盛りで乗っている。

「やはく乾杯しましょう」
 小野田のその一言に、倫子がビールの栓を抜き、小野田と萌美のコップに注ぐ。そして小野田が倫子に注ぎ返す。

「では…」
 小野田の音頭で、秘書二人もコップを差し出して、
「小野田ハウスの益々の発展と、新海萌美さんのご活躍を期待しまして乾杯」
「かんぱぁいぃ」
 小野田の太い声に続いて女の澄んだ声が部屋に響く。

 乾杯の音頭が終わると、小野田がさっそく箸を伸ばして一度に二切れの刺身を口に放り込んでビールで流し込む。その飲干したコップに倫子がビールを注ぐ。琥珀色の液体と泡が盛り上がってコップの頂でピタリと止まる。

 新人の研修は御膳を囲んでいるみんながほろ酔いになってから始めるつもりだったが、倫子のビールの絶妙な注ぎ方が予定を前倒しにさせた。  

「新海さん、注いでみて」

 倫子に言われて萌美は瓶ビールを片手で持った。すると、すぐに倫子に注意されて両手で持ち直した。

「片手では失礼なのよ」
「はい」

 小野田は残りのビールを飲み干して萌美の方へコップを差し出す。萌美は小野田のコップにビール瓶を傾ける。

 その萌美の注いだビールの泡がコップから溢れ出た。

 倫子はほっと胸を撫で下ろした。ビールを注ぐ簡単なことに新人なりの粗相を見せてくれて、心が和んだのだ。

 倫子は布巾で溢れたビールの泡を拭きながら、
「お仕事もそうだけど、これだけは早く上手になってね」
と、萌美に布巾を渡して拭かせる。

 その様子を見ながら小野田は去年の響子の研修を想い出していた。

 人妻だから旦那にビールを注ぐ機会が多く、上手だろうと思っていた。が、そうではなかった。それで結局、親切丁寧に教えることにもなり、そのスキンシップが高じて美味しい人妻の肉まで頂くことにもなったが…。

 それで、こんどの新人だが、

 一流女子大卒に一流商事会社総務課勤務の経歴。さらには秘書検定準一級の資格も所有している美人も手先は不器用なのかもしれない。だとすれば、響子のように肉を頂くのは意外に早いかも…。

「おビールぐらい早く注げるようになりましょうね」
「はい。すみません」

 室長の再三の叱責に萌美の顔が青ざめているようにも見える。

「会社の忘年会かなんかで、おビールを注いだことないの」
「…ありません」

 倫子の嫌味に萌美は情けなく泣きたいくらいだった。自己弁護するわけではないが、今の若い女子のほとんどは、コップに瓶ビールを注いだことがないのは普通のこと。でも、こうして秘書になったからには、室長のいうようにコップにビールを注げないようでは秘書として失格なのは当然のことだった。

「ともかくも、早く注げるようになりましょう。わたしも協力するから」
「よろしくお願いします」
 萌美は拭き終えた布巾をお膳の隅に置くと、倫子にお辞儀した。

 秘書検定の実務講座には一般教養の他にも、サービス接遇というのがあるが、それは言葉使いと接客での物腰の習得で、お酒やビールを注ぐ項目は省かれている。

 なぜならば、そこまで入り込むと風俗営業での接客の範囲になるからだ。女のエリート職でもある秘書にそこまでさせるわけにはいかないのだろう。

 そうして萌美の酒宴の席での本格的な研修が始まった。

 響子のときのように、倫子が基本形を見せてから、萌美がそれを真似ていく。

「さあ、新海さん、わたしのようにしてみて」
「…はい」

 小野田にビールを注いで戻ってきた倫子に代わって萌美は緊張した面持ちで席から立ち上がった。

 お膳の端を回って小野田の傍に行き、お辞儀してから、浴衣の裾を揃えて腰を下ろすと、ビールの瓶を両手で持った。そのとき倫子から叱責の声が浴びせられた。

「それではだめでしょう! 脚を社長さんの反対側に流すようにしないと、身体が逃げてしまうでしょう。わたしの何処を見ていたの」

 またしても倫子の強い叱責だった。お風呂ではあんなに打ち解けた室長だったのに、いざお仕事となると遠慮のない厳しさになる。

「申し訳ございません!」
 萌美は謝ると、手にしたビール瓶をお膳に置いて立ちあがった。

 そして、ふたたび小野田にお辞儀をしてから脚を彼とは反対側に流してビールを持った。それだけで身体が自然にお酌をする相手の方へと傾いていく。



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